ジンのUボート・スチールって何?[Sinn U1インプレこぼれ話]

04_こぼれ話

 筆者佐藤しんいちがwebChronosで担当したインプレッション記事のこぼれ話をするコーナーです。今回は、SinnのU1について検討している際に、ケース素材である「Uボート・スチール」って何だ?という疑問が生じたので調査した内容を解説します。ただ、非公式を含むため本編には出さず、あくまで個人研究ということで、こちらに残しておきます。
 時計本体のインプレッションはwebChronosの該当記事をご覧ください。

元記事

着用感が良くてフレンドリーな1000m防水の
今回インプレッションするのは、1000mの耐圧テストをクリアするジン「U1」である。ジンの個性豊かなラインナップの中で、U1はダイバーズウォッチ「Uシリーズ」の基本モデルとなる。
筆者:佐藤しんいち Twitter:@SugarHeartOne
webChronosを中心に、時計ライターとして活動中。
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ジン「U1」

ジンのUボート・スチールとは何か?を解説する

 ジンのU1は、同社のダイバーズウォッチシリーズの「Uシリーズ」の基本モデルです。基本モデルでありながら1000m防水という高い性能を備えます。でも、1000m防水だったらデカくて重くて、着用感が悪いのでは? という疑問にお答えするようなインプレッションになっております。ぜひ、元記事をご覧ください。
 また、公式サイトにもどうぞ。

SINN OFFICIAL WEB SITE | ドイツ製 高機能腕時計「ジン特殊時計」
ドイツ製腕時計メーカーSinn(ジン)の日本公式サイト。1961年フランクフルトにて創業以来時計を製作しながら進化を続けています。ECサイトもShop List内に併設。

ケース素材の「Uボート・スチール」って何?

 ケース素材はUボート・スチールとされていますが、その詳細は解説されていません。Sinnは様々な特殊技術を持っていて、公式サイトでは詳しく解説されたりしていますが、Uボート・スチールという、いかにも売りになりそうな要素が解説されていません。妙ですね…

 というわけで、ドイツ本国の公式サイトを調べました。

Sinn Spezialuhren | U1 | purchase online
U1 - With the diving watch U1, Sinn engineers succeeded in developing a diving watch in which the quality of material and design gives it superior resistance to...

 モデルの説明文章の最後に「Print as PDF」というリンクがあり、ここから詳しい文書を調べます。ここに、素材について詳しく述べられていますので引用します。

In their search for a steel with the desired resistance, the Sinn engineers found what they were looking for at the German submarine manufacturer ThyssenKrupp Marine Systems: the steel manufacturers supply small quantities of the original steel of the current German submarine production exclusively to Sinn for making diving watches — the very steel of which the external hulls of the German Navy’s new submarine class 212, which currently represents the most advanced non-nuclear submarines in the world, are made. This original submarine steel is not only extraordinarily seawater-resistant but is also of the highest non-magnetic quality without any residual magnetism.

Sinn Uhren: Modell U1

 簡単に要約すると、使われている鋼材は、ドイツ海軍の現役潜水艦(212型)に使われているのと同じ鋼材であり、海水耐性があるだけでなく、残留磁気が無い非磁性体とのことです。よって、212型潜水艦の鋼材が何であるか?を調べればよいことになります。

 調べてみた結果、さすがミリタリー領域のマニアたちはすばらしい。色々と収穫がありました。

リクエストされたページは表示できません - Seesaa Wiki(ウィキ)
『「そうりゅう型潜水艦と212A型潜水艦」』
オーストラリアの次期潜水艦導入で話題になった日本のそうりゅう型潜水艦対抗馬であるドイツの212A型潜水艦と比較してみようかと思います★そうりゅう型潜水艦乗員:…

 212型潜水艦には「Krupp Thyssen Nirosta社が製造する非磁性オーステナイト系ステンレス鋼EN1.3964」が使われているのは間違いなさそうです。また、鋼材製造メーカーは潜水艦を製造するThyssenKrupp Marine Systems社の関連会社だと思われるので、この点も符合します。ほぼ正解でしょう。一点、気になることは、2009年あたりには、海外のフォーラムで「Uボート・スチールはHY-100(相当)だよね」というのが広まっていたことです。一例を示します。

A little bit of info on the U-boat steel

 HY-100はアメリカの潜水艦に用いられている非磁性の鋼材です。潜水艦に非磁性体を用いると良い理由は、磁気帯びした船体に反応する機雷を発動させなかったり、磁場を利用した兵器が多いから、それを避けるためだそうです。

 さて、ここまでで示してこなかったEN1.3964とHY-100の重要な特徴があります。それは高降伏点鋼(高張力鋼=ハイテン)であるということです。高降伏点鋼については、詳しくは本文に述べましたのでさらっと。

着用感が良くてフレンドリーな1000m防水の
今回インプレッションするのは、1000mの耐圧テストをクリアするジン「U1」である。ジンの個性豊かなラインナップの中で、U1はダイバーズウォッチ「Uシリーズ」の基本モデルとなる。

 高降伏点鋼は、降伏点が高い鋼材で、引っ張っても元に戻る特徴が強く、伸びきってしまいにくい=破断しにくい利点があります。よって、強い力を受けても引き裂かれて穴が開いたりしにくいという訳です。
 EN1.3964の耐力は560MPaとされており、HY-100は689MPa以下とされています。また、ニッケルの配合がかなり違います。よってこれらは同じものではないと筆者は判断しています。

 以上を統合して、ジンの使用しているUボート・スチールは、「212型潜水艦に用いられている非磁性オーステナイト系ステンレス鋼EN1.3964」である可能性が極めて高い、と結論付けました。

Uボート・スチールのメリットを活かしたU1

 Uボート・スチールは、耐海水性能があり、非磁性体である点は、ダイバーズウォッチ用として非常に優れた素材です。しかも、高降伏点鋼で塑性変形しにくく、ストーリー性もあります。こういうところにジンは目を付けるのが上手いなぁと感じます。時計の出来としても高い完成度ですから、U1やジンに注目していただけると嬉しいです。

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